鎌倉研修紀行文

中学2年生の5月に行われる鎌倉研修の紀行文をご紹介しています。

執筆者 553

1.前書き

渋幕で最初のクラス替えをしたら、すぐに鎌倉研修の準備が本格的にはじまる。

5月に行われる日帰りの研修だ。5人前後の班ごとに活動するため、中1の野田・南房総研修と比べて格段に自由度が高くなる。先生と会うのは到着・中間・解散の3度のチェックのみだ。行程は学習テーマにあわせて各班で決定し、昼食場所も自分たちで調べて予約する。研修のルールは、各クラスで意見を集めて研修委員が編纂した

2.テーマ決めの苦悩

 私は、家族と観光で鎌倉を訪れたことがある。大河ドラマに出てきた頼朝や北条氏の聖地巡りをしたり、名物のしらす丼を食べたりして楽しんだ。学校によっては、小学校の修学旅行で鎌倉を訪れるところもあるようだ。

しかし今回は、クラスメイトと親睦を深めよう鎌倉弾丸ツアー!で終わらせるわけにはいかない。自調自考の学び舎・渋幕の生徒として「研修」の姿勢で臨まねばならない。鎌倉から何を学べるだろうか。何を学ぶべきだろうか。白紙の事前学習プリントを睨みながら考える。できれば他の場所で活かせる内容を学びたい。去年の南房総研修の発表会では、同級生がもっと魅力をアピールして観光地化すれば人が集まって地域が活性化するとスピーチし、具体案を提示していた。その姿が深く印象に残っていた私は、にぎわう小町通りの様子を思い出して研修テーマを見つけた。どうして鎌倉は旅行先に選ばれるのかを探ることにした。

3.現地集合チャレンジ

 研修は自力で鎌倉に辿り着くところから始まる。渋幕名物の現地集合だ。日頃使うことのない慣れない路線を、行程表片手に己の身ひとつで攻略するのだ。

途中で乗る予定だった路線にダイヤ乱れが発生した。予定を何分も過ぎているのに電車が来なくてホームを間違えたかとかなり焦ったが、ここで呆然としていても仕方がないと我に返り、状況確認をして到着の遅れを先生に連絡する、という次にすべきステップも思い出せた。(学年集会のお話大切です。)

幸い次の乗り換え地点での待ち時間が長かったため、結果的に到着時間は変わらなかったが、予想外の出来事への対応として経験値を獲得できた。その後、昼食に思ったより時間がかかった時も、すべきことの優先順位を確認し先生に行程の変更を申請できた。ハプニングに対して柔軟に対処する力を身につけられたように思う。この日に中2だけで鎌倉を歩き回って稼いだEXPは、部活動での遠征にも役立った。

3.優しい鎌倉のみなさん

どうにか到着した鎌倉駅で班員と合流し、出席チェックを受けた。いよいよ班行動がスタートする。

最初の訪問地は鎌倉農協連即売所だ。新鮮な鎌倉野菜を生産者さんから直接購入できる場所として人気だ。許可を得て写真を撮っていたら「あら、調べ学習ですか?」と声をかけられた。ピークの時間帯は終わったようで、その方からお話を聞けた。事前学習の甲斐あって、インターネットで検索しても分からないような踏み込んだ質問も聞くことができた。事前学習の心強さを実感した。鎌倉育ちのトマトの甘さも忘れられない。

予定時刻通りに即売所を出て、鶴岡八幡宮へ向かった。校外学習中の学生をはじめ、まさに老若男女で賑わっており、出店や屋台が並んでいた。外国語を話すグループも沢山見かけた。しかし私たちは研修生である。観光地としての魅力アップのための取り組みに意識して参拝した。

例えば、朱雀大路の看板はピクトグラムを用いられている。また史跡を説明する案内板にあるQRコードを読み取れば、いくつかの言語で翻訳されたものが読める。ターゲット層を広げるための配慮だ。ニュース番組で大学教授が、日本には魅力的な場所が沢山あるのに外国人が訪れる場所が偏っていて勿体ないと発言していた。それは単純に知名度の差だけではなく、言語が通じない場所で過ごすことは不安が多く、だからこそ品質が担保されていてリスクの低い定番の場所に集まりがちということだろう。例えばトイレに行きたくなったとしても標識は読めない、人に聞こうとも身振り手振りで伝わらない、らしきマークを見つけて慌てて駆け込むも貼ってあるポスターに何と書いてあるか分からず不安になる。もしもの怪我などを考えても、確かにそんな旅行は避けたい。多言語対応の取り組みは小町通りや鎌倉大仏で知られる高徳院でも見られた。「定番」になるには言語の壁を取り除くことが必要なのだと感じた。

 

高徳院に向かったのは、お昼を終えてからだ。鎌倉駅から少し離れ、鶴岡八幡宮とは反対側に位置する。中間チェックの先生を探し、写真を撮ってもらった。即売所で質問できたことに味を占め、高徳院ではこちらから声をかけた(失礼のないように質問を選び、シミュレートを繰り返して勇気を振り絞って挑みました)ところ、丁寧にお答えくださった上に「ぼくよりあちらの方が詳しいですよ」と本殿にいらした方を薦めていただいた。そちらの方からはコロナ禍を脱却しつつある最近の参拝者層などを教えていただけた。

大仏の胎内も拝観してきた

最後に鎌倉駅に引き返し、小町通りにやってきた。ただ昼食でのタイムロスのしわ寄せによって少しせわしなくなってしまった点は改善点として挙げられる。お土産を購入したり、「この看板、4か国語じゃん!」と盛り上がったり満喫できた。

気持ちのいい晴天でした

4.遠足の終わり、研修の終わり

鎌倉駅の時計広場で解散チェックを受けてから、棒になった足を引きずって家路を辿った。眠気と闘いながらGoogleクラスルームで帰宅報告を済ませて長かった研修の終わり、ではないのだ。渋幕の研修は「おうちに帰るまで」ではなく、学習結果を共有するまでである。今回の研修では班ごとに壁新聞を作成することになった。全員での協力が求められるミッションだがなにしろ余裕がない。無情にも、研修の3日後に中間考査の範囲が発表されたためである。新聞の命名というセンスの問われるチャレンジをなんとかクリアし、休み時間もフル活用して完成させた。(すべて横書きで押し切ったことで新聞ぽさが大幅に削減されたことを、後輩のために書き残しておこう。)壁新聞を読むことで、その班の1日分の経験を凝縮して理解できた。個人的に鎌倉彫を実際に体験した班の新聞は「へぇー」と何度も思わされて面白かった。

5.まとめ

ただ鎌倉に行って帰ってくるだけ、小町通りのいちごあめ食べたいなぁ、と舐めていると脱落間違いなしの渋幕の研修。限られた時間で現地でしか得られないものを得るために、調べてわかることは事前に学んでおく=事前学習の大切さを痛感した。特にテーマ決めが重要で妥協してあまり興味のないことを調べるよりも、マイナーでも情熱を持てる事柄を掘り下げる方が良い。これは同じ班のメンバーが予想以上に細かく調べていて、自分だけ理解が浅かったと話す友人からの反面教師的教えだ。

八幡宮大仏小町通り、と王道のスポットがほとんどだったが、宝の持ち腐れで終わらないように観光資源を十二分にアピールするための工夫を見つけられた。鎌倉観光協会で情報をまとめて発信してくれることは、いち鎌倉訪問者としてもありがたい。

また鎌倉は日本でトップクラスのプロ観光地であるだけに、食べ歩きや海側への遠征などの誘惑が多い。反省点がいくつかあった。PDCAサイクルを回すべく、東北研修で活かしていきたい。

最後に、自調自考というのは「自分だけで調べて考えろ」というわけではない。自分なりに主体性をもって調べて考えることの大切さを言っている、と私は解釈している。(自分を調べ、自分を考えるというリベラルアーツ的な意味もあるそうだが)班員だけで準備・訪問・結果報告をしないといけない状況で必然的に協力体制が生まれ、仲が深まったように思う。計画を練る段階では「どれにする?」「どっちでもいいよ」という会話が多かった私たちだが、壁新聞作成のパートでは、各々が率先して「やること」を見つけて作業をしていた。

中2のスタートを幸先よく切れた。

 

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